――トップセールスほど暇そう
これまで何人かの「トップセールス」と呼ばれる人たちに出会ってきました。
業界も会社も違います。しかし、彼らを見ていて、以前から不思議に思っていた共通点があります。
トップセールスほど、あまり営業しているように見えないのです。
むしろ、傍から見ると暇そうに見えます(笑)
普通に考えれば不思議な話です。営業成績が抜群なのですから、誰よりも電話をかけ、誰よりも多くのお客様を訪問し、朝から晩まで忙しく動き回っていると思うでしょう。
ところが、実際には必ずしもそうではありません。
その典型が保険営業ではないかと思います。
保険という商品は、同じ会社であれば、営業担当者によって商品そのものが大きく変わるわけではありません。それなのに営業成績には驚くほど大きな差がつきます。
そして毎年高い実績を上げ続けている人ほど、意外なほどガツガツ営業していません。
なぜでしょうか。
答えは簡単です。
お客様の方からやって来るからです。
私は営業には「Push」と「Pull」という二つの段階があると思っています。
営業を始めたばかりの頃は、誰でもPushから始めるしかありません。
電話をする。メールを送る。人に会いに行く。自己紹介をする。商品を説明する。「一度話を聞いてください」とお願いする。
こちらからお客様に働きかける営業です。
⇒私は自分の中でPush型営業と名付けています。
これは決して悪いことではありません。むしろ、最初は徹底的にPushしなければならないと思います。何もしなければ、自分が何者なのか、何ができるのかさえ誰にも知ってもらえないからです。
ところが、あるところを境に営業の方向が逆転します。
Pushしていた営業が、徐々に、自分からお客様に働きかけなくても、自然とお客様の方から来てもらえる営業に変わっていきます。
=私はこれをPull型営業と名付けています。
飲食店を考えると分かりやすいでしょう。
開店したその日から何もしなくても行列ができる店は、そう多くありません。最初は広告を出したり、SNSで発信したり、知人に来てもらったりと、何らかの形でお客様に店の存在を知ってもらう必要があります。
しかし、そこで食べた人が、「この店はうまい。また来たい」と思えば状況が変わります。
その人が友人を連れてくる。SNSに投稿する。「あの店はいいよ」と誰かに話す。
すると店が一生懸命お客様を探さなくても、お客様がお客様を連れてきてくれるようになります。
営業もまったく同じです。
BtoBの営業でも、最初はこちらから会社や商品の説明をし、自分自身を知ってもらわなければなりません。
しかし、営業を続けているうちに、
「この人とは長く付き合いたい」
「何かあったら、まずこの人に相談してみよう」
と思ってもらえる瞬間がやってきます。
私はここが営業における大きな分岐点だと思っています。
もうおわかりですね。PushからPullに変わる瞬間です。
こうなると、お客様は単に商品を買っているのではありません。
「あなたから買いたい」と思っているのです。
さらに面白いことが起こります。
人は、自分が信頼している人や「この人はいい」と思った人を、別の人にも紹介したくなるものです。
「あの人に相談してみたら」
その一言で、新しいお客様との商談が始まります。
しかも紹介された側には、最初から「あの人が薦める人なら大丈夫だろう」という信用があります。ゼロから始める営業とは、スタート地点がまったく違います。
商談は進みやすくなり、成約率も飛躍的に上がります。
さらに、そのお客様が別のお客様を紹介してくれる。
こうして信用が信用を呼び、営業はPushからPullへと変わっていきます。
そしてPullが十分に強くなると、不思議な状態になります。
営業マンが営業しなくても、契約や受注が舞い込んでくるのです。
待っていれば電話が鳴る。メールが届く。「○○さんから紹介されました」と連絡が来る。「ちょっと相談したいことがある」と声がかかる。
トップセールスが暇そうに見える理由は、実はここにあります。
仕事をしていないのではありません。
それまで長い時間をかけて積み上げてきた信用が、本人に代わって営業しているのです。
もちろん、最初からPull営業ができる人はいません。
最初はPushするしかありません。
会う。話す。提案する。約束を守る。期待された以上のことをする。
その一つひとつの積み重ねが信用という「営業資産」になり、やがて自分の代わりに働き始めます。
だから私は、営業の最終目標は製品・商品やサービスを「売ること」ではないと思っています。
「何かあったら、あの人に相談しよう」と思い出してもらえる人になることです。
そこまで行けば、売上は結果として後からついてきます。
一般的な営業マンを見ると、どうしても「どうやって売ればいいですか」「どんな営業トークをすればいいですか」と考えがちです。
もちろん、それも必要です。
しかし、本当に目指してほしいのは、その先です。
自分が営業しなくても、自分の信用が営業してくれる状態をつくること。
これこそが、私がこれまで出会ってきたトップセールスたちから感じた、営業という仕事の一つの到達点なのだと思います。
最後に一つだけ付け加えますと、これは隠れた真実なのです。上司や経営層は決してこの真実を伝えません。なぜなら、さぼって暇そうにしている方が、営業成績が上がると勘違いする社員が出てくるからです(笑)
また、この真実を理解しているビジネスパーソンは極めて少ないということもお伝えしておきます。
ぜひ、今から「あの人に相談しよう」と思われるビジネスパーソンになることを目指してください。
営業論シリーズ:
営業に必要な忘れがちな要素
営業論シリーズ Vol.2
営業論シリーズ Vol.3(実践編)
営業論シリーズ Vol.4

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