先週のコラムでは、これからの時代、ひとつの専門分野だけを深く掘り下げるスペシャリストだけではなく、異なる分野をつなぎ、全体を俯瞰できる「ゼネラリスト」の力がますます重要になるのではないか、という話を書きました。
先週のコラムはこちら:専門性だけでは会社は生き残れない
今回は、その続きとして、仕事を選ぶときのもうひとつの視点について書いてみたいと思います。
それは、
「何をするか」だけではなく、「誰とするか」を考える
ということです。
就職活動をしている学生や、転職を考えている人と話をすると、
「自分は何をしたいのか」
「どんな仕事に就きたいのか」
「自分の専門性をどこで生かせるのか」
という話が中心になります。
もちろん、これは大切なことです。
一方、最近では採用する会社側も、学歴や経歴だけではなく、
「この人には何ができるのか」
「どんなスキルを持っているのか」
「この仕事に適性があるのか」
を以前にも増して重視するようになっています。
つまり、働く側も採用する側も、「何をするのか」「何ができるのか」を見ているわけです。
しかし、約40年、社会人としてさまざまな会社や事業に関わってきた私には、少し違った思いがあります。
「何をするか」に執着しすぎると、いつか行き詰まることがある。
なぜなら、その「何」そのものが、世の中からなくなってしまうことがあるからです。
「何」は、突然なくなる
ここ数年を振り返るだけでも、それはよく分かります。
生成AIの急速な進化によって、ソフトウェア開発の世界は大きく変わりました。
少し前まで、プログラムを書くこと、コードを書くこと自体が非常に価値の高い専門能力でした。優秀なエンジニアを採用することは、多くの企業にとって重要な経営課題でもありました。
ところが生成AIが登場し、自然言語で指示するだけで相当なレベルのコードを生成できるようになりました。
もちろん、ソフトウェアエンジニアという仕事そのものがなくなるわけではありません。
しかし、「人間が一からコードを書く」という仕事の価値や必要量は、わずか数年で大きく変わりつつあります。
5年前に、ここまで急激な変化を予想していた人が、果たしてどれだけいたでしょうか。
同じことは過去にも起きています。
iPhoneが登場する以前、日本の携帯電話は世界でも非常に進んでいました。
NTTドコモの「iモード」はその象徴です。
携帯電話でインターネットに接続し、ニュースを読み、メールを送り、さまざまなサービスを利用する。今では当たり前のことですが、当時としては画期的な仕組みでした。
そのため、iモードを中心とした巨大な産業が生まれ、そこで多くの人がソフトウェアやサービスを開発していました。
ところが、iPhoneをはじめとするスマートフォンが普及すると、その世界は急速に変わりました。
昨日まで最先端だった技術が、数年後には必要とされなくなります。
これはITだけの話ではありません。
製造業でも同じです。
フィルムカメラ、ブラウン管テレビ、VHS、CDやDVD、ガソリン車を構成するさまざまな部品――。
かつて巨大な市場だったものが、技術革新によって縮小した例はいくらでもあります。
どれほど高い専門性を持っていても、その専門性を必要とする市場そのものがなくなることがある。
これが、変化の激しい時代の怖さです。
では、何を基準に会社を選ぶのか
そこで私は、これから社会に出る若い人たちに、ぜひもうひとつ考えてほしいことがあります。
「私は何をしたいのか」
だけではなく、
「私は誰と仕事をしたいのか」
ということです。
この先輩がいる会社で仕事をしてみたい。
この上司から学んでみたい。
この仲間たちと一緒に何かを成し遂げたい。
この会社に集まっている人たちとなら、自分も成長できそうだ。
そう思えるかどうかです。
私は、仕事を選ぶうえで、これは想像以上に重要なことだと思っています。
なぜなら、「何をするか」は変わっても、「誰とするか」がしっかりしていれば、次の「何」を一緒につくることができるからです。
事業には寿命があります。
どれほど優れた商品でも、永遠に売れ続けることはありません。
技術は変わり、顧客のニーズも変わり、競争相手も変わります。
時には、それまで会社を支えてきた事業から撤退しなければならないことさえあります。
そんなとき、会社に残る本当の財産とは何でしょうか。
私は、最後に残るのは「人」だと思っています。
会社とは、変化する時代の中で、新しい仕事を一緒につくっていく人たちの集まりなのではないでしょうか。
これは経営者にとっても同じです。
採用するときに、
「この人は何ができるのか」
だけを見ていてはいけない。
今持っているスキルが、5年後、10年後にも同じ価値を持っている保証はありません。
それ以上に、
「この人と一緒に仕事をしたいと思えるか」
「環境が変わったとき、一緒に次の道を考えられる人か」
「知らないことを学び、新しいことに挑戦できる人か」
を見る必要があると思います。
仕事ではなく、人を選ぶ
就職活動では、どうしても仕事内容や給与、待遇、勤務地、会社の知名度などに目が向きます。
それらも当然、大切です。
しかし、もし二つの会社で迷ったなら、私はこんな問いを自分に投げかけてみてほしいと思います。
「どちらの会社の人たちと、10年後も一緒に仕事をしていたいだろうか」
今やりたい仕事が、10年後にも存在しているとは限りません。
今持っている専門性が、10年後にも高く評価されているとも限りません。
まして、AIがこれだけの速度で進化している時代です。
これから先、私たちが想像もしていない仕事が生まれる一方で、今は花形と呼ばれている仕事がなくなることもあるでしょう。
だからこそ、
「何をするか」だけで人生を決めない。
「何」は変わります。
しかし、
「誰とするか」は、次の「何」を生み出すことができます。
仕事とは、最初から決められた「何か」を一生続けることではありません。
信頼できる人たちと出会い、学び、挑戦し、時代が変わればまた新しい仕事をつくっていく。
そんな働き方こそ、変化の激しいこれからの時代に必要なのではないでしょうか。
約40年の社会人生活を振り返って、私は今、そんなことを強く感じています。

コメントを残す