営業は台本通りにいかない ― 引き出しの数が成果を決める
先週は、二つの印象的な機会がありました。
一つは、グループ会社の営業担当と新規の営業先へ同行したこと。もう一つは、十数年前に同じ会社で一緒に営業活動をしていた元部下と会う機会があったことです。
不思議なことに、この二つの場で共通の話題になったのが、「BtoB営業は、全く同じ段取りや準備ではうまくいかない」ということでした。
これは営業経験のある方なら、大きくうなずいていただけるのではないでしょうか。
10社訪問すれば、10通りの展開があります。いや、実際には10通りどころではありません。同じ会社を訪問したとしても、面談する相手が違えば、まるで別の商談になります。
相手企業の社歴、事業内容、現在抱えている課題、業界の立ち位置、競争環境。
そして何より、「誰が面談相手なのか」。
技術責任者と話すのか、購買担当と話すのか、それとも経営者なのか。
この違いは非常に大きい。
技術責任者であれば、製品の性能や仕様、技術的な裏付けに関心が向きます。購買担当であれば価格や納期、メンテナンス性が重要になるでしょう。一方、経営者であれば、投資対効果や競争優位性、会社の将来戦略との整合性といった、より大きな視点で物事を見ています。
つまり、営業とは“同じことを繰り返す仕事”ではなく、毎回異なる相手に対して最適な会話を組み立てる仕事なのです。
用意する資料は同じでも、進め方は変わる
もちろん、営業には準備が必要です。
会社案内、製品カタログ、実績資料、提案書。これらの基本資料はある程度共通化できますし、むしろ一定の型を持っておくことは重要です。
しかし、ここからが営業の本当の面白さです。
用意する資料が同じだからといって、営業の進め方まで同じでよいわけではありません。
相手の表情が硬ければ、まず警戒を解くことが必要になるかもしれません。質問が技術的なら、そこを深掘りする必要があるでしょう。経営者が相手なら、製品説明に時間をかけるより、経営課題との接点を先に示した方がよい場合もあります。
つまり営業とは、準備した資料を順番に読み上げる仕事ではありません。
相手の反応を見ながら、その場でどの引き出しを開けるかを判断する仕事なのです。
型は必要。しかし、型に縛られてはいけない
若手営業にありがちなのが、「教わった通りにやればうまくいく」と考えてしまうことです。
確かに型は重要です。野球にも基本フォームがありますし、ゴルフにもスイングの基本があります。営業にも基本動作があります。
しかし、実戦は違います。
野球なら相手投手によって配球も変わる。ゴルフなら風やライによってクラブを変える。
営業も同じです。
どれだけ準備していても、相手の一言で商談の流れは大きく変わります。
「実は、別の課題の方が優先なんです」
「その話の前に、一つ聞きたいことがある」
「競合他社の話を聞いたばかりなのですが…」
この瞬間に、台本通りに進めようとする営業は苦しくなります。
一方、引き出しを多く持っている営業は強い。
話題を変える。
切り口を変える。
説明の順番を変える。
場合によっては、今日は売り込まずに次回につなげる。
この柔軟さは、決して場当たり的な対応ではありません。
事前にどれだけ多くの引き出しを準備していたか、その差です。
BtoB営業で本当に重要なこと
BtoB営業は、商品説明の仕事ではありません。
相手企業の課題を理解し、誰が何を意思決定するのかを見極め、その場で最適な会話を組み立てる仕事です。
だからこそ、「今日、全部説明できたかどうか」は本質ではありません。
本当に重要なのは、次のステップに進めたかどうかです。
初回訪問で契約が決まるケースは、むしろ稀です。
しかし、相手に「もう少し詳しく聞きたい」「次は技術担当も交えて話したい」「社内で検討してみたい」と思っていただければ、それは十分に成功です。
営業は、一回で決める競技ではありません。
流れをつくり、相手の理解と関心を深め、次の一歩へ進める仕事です。
今日からできる行動提案
第一に、面談前に “3つのシナリオ” を考えておくことです。
技術寄りの話になった場合、経営寄りになった場合、課題解決寄りになった場合。この3パターンを想定しておくだけでも、商談の柔軟性は大きく変わります。
第二に、話すことより “相手を見る” ことを意識すること。
表情、質問、沈黙、視線の変化。そこに次の引き出しを開けるヒントがあります。
第三に、初回面談のゴールを “次につなげる” に置くこと。
最初から決めようとすると、営業が一方通行になりがちです。
最後に
十数年前、一緒に営業をしていた元部下と話していて感じたのは、営業の本質は時代が変わっても変わらないということでした。
商品は変わる。市場も変わる。営業ツールもAIも進化する。
しかし、相手が人である限り、営業の本質は“対話”です。
そして対話に必要なのは、台本ではありません。
引き出しです。
営業とは、準備したものをそのまま話す仕事ではなく、その場で最適な引き出しを選び、相手に合わせて会話を組み立てる仕事。
これが、私の考えるBtoB営業の本質です。
営業論シリーズはこちら
営業論シリーズ Vol.3(実践編)
営業論シリーズ Vol.2
営業に必要な忘れがちな要素

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