――プロスポーツの経営を考える
先週、9月17日木曜、福岡ソフトバンクホークスがパ・リーグ優勝を決めました。
ソフトバンクファンの皆様、おめでとうございます!
これで3年連続のリーグ優勝です。小久保裕紀監督の手腕や選手たちの活躍が称えられるのは当然ですが、私はプロ野球を見るとき、近年は監督や選手だけではなく、その背後にいる「球団フロント」に目が向くようになりました。
ホークスが強いのは、毎年優秀な選手を集めているからだけではありません。三軍、四軍まで含めた育成組織を持ち、スカウティング、データ分析、選手育成、補強を長期的な仕組みとして構築している。監督が替わっても大きく崩れず、継続して優勝争いをしているところに、組織としての強さを感じます。
私は広島カープのファンです。カープは2016年から2018年までセ・リーグを3連覇しました。しかし、その中心選手だった丸佳浩選手が2018年オフにFAで巨人へ移籍し、翌2019年、カープは4位、巨人はリーグ優勝となりました。もちろん、その結果を丸選手一人の移籍だけで説明することはできません。しかし、2年連続MVPを獲得した中心打者が、しかも同じリーグのライバル球団へ移った影響が小さかったとも思えません。2019年の丸選手は巨人で143試合に出場し、打率.292、27本塁打、89打点を残しています。
当時、カープも丸選手を全く引き止めなかったわけではありません。FA宣言後の残留を例外的に認め、報道では4年総額17億円を提示したとされています。一方、巨人は5年総額30億円超とも報じられました。カープとしては「最大限の評価」だったのでしょう。
しかし、私はここに球団経営としての疑問を感じます。
選手の年俸を単なる「コスト」として考えてよいのでしょうか?
プロ野球球団にとって最も重要な存在はファンです。勝てば球場に足を運ぶ人が増え、グッズが売れ、スポンサーにとっての価値も高まる。クライマックスシリーズを本拠地で開催すれば、チケット、飲食、物販など新たな収益も生まれます。さらに日本シリーズに進めば、全国的な露出も増え、球団のブランド価値は一段高まります(※)
そう考えると、主力選手への年俸は単なる費用ではなく、「勝つ確率を高めるための投資」と考えるべきではないでしょうか。
例えば、ある選手を残すために年間2億円余計に必要だったとしても、その選手がいることでCS進出やリーグ優勝の可能性が高まり、結果としてそれ以上の追加収益やブランド価値を生むのであれば、その契約は十分に合理的です。経営で考えるべきなのは「高いか安いか」ではなく、「投資に対してどれだけのリターンが期待できるか」です。
※ 中国電力の試算では、2018年カープはマツダスタジアムでCS3試合、日本シリーズ3試合の計6試合を開催し、ポストシーズンだけで約19万人を動員しました。この6試合による広島県内の経済効果は約19億円。単純平均すると、1試合約3.2億円です。
そして、もう一つ忘れてはいけないのが、数字には直接表れにくいファンの感情です。
ドラフトで入団した若い選手を二軍時代から応援し、一軍の中心選手へ育っていく姿を何年も見続ける。その選手が球団の顔になったとき、FAだから仕方がない、他球団の方が高いから仕方がない、と簡単に割り切れるファンばかりではありません。
チームの勝敗を左右する選手、ファンから特別に愛されている選手については、通常の年俸体系とは別の経営判断があってよいと思います。
21日(祝・月曜)の日経新聞には、スポーツ庁が2027年度からプロスポーツクラブと経営人材のマッチングを進めるという記事が掲載されていました。日本のスポーツ界には、競技経験者がそのまま組織の管理職となり、経営やマーケティングの専門性が十分でないケースがある、という問題意識です。
記事で特に印象に残ったのは、NPBの収益が約2000億円なのに対し、MLBは約1兆5480億円と大きな差がある一方、平均観客動員はともに3万人弱で大差がないという点です。球団数や市場規模が違うため単純比較はできませんが、少なくとも「観客が少ないから稼げない」という話ではありません。
すでに球場へ来てくれているファンに、どれだけ高い価値を提供し、その熱量を放映権、スポンサー収入、物販、デジタルコンテンツなどの収益につなげられるか。そこに経営の余地があるのでしょう。
私は、その議論の出発点もやはり「ファン」であるべきだと思います。ファンを単なる顧客単価として見るのではなく、勝利を願い、選手に感情移入し、何年も球団を支えてくれる存在として捉える。その期待に応えることこそ、スポーツビジネス特有の経営責任ではないでしょうか。
私は、スポーツ界への経営人材の登用を「もっと稼げる経営者を入れよう」という話だけにしてはいけないと思います。
強いチームをつくることと、収益を上げることは別々の仕事ではありません。勝つからファンが熱狂し、ファンが集まるから収益が生まれ、その収益を再び選手、育成、データ、設備へ投資する。その循環をつくるのが、本来のフロントの仕事です。
監督を替えればチームが強くなる、スター選手を獲得すれば勝てる、というほどプロスポーツは単純ではありません。
長く強い球団には、長く強い理由があります。
今年も優勝したホークスを見ながら、最下位に甘んじるカープと、優勝を続けるホークス。その両球団のフロント経営力の差を、改めて感じています。

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