「自分がやりたい仕事」が、必ずしも「自分に向いている仕事」ではない(読了目安時間:5分)

今月3日金曜、株式会社東京衡機試験機の代理店総会を開催しました。
総会終了後の食事会で、代理店会長、副会長と「人材育成」について話す機会がありました。
その中で、私たち三人の意見が完全に一致したことがあります。
「人は、自分自身のことを理解していない」
ということでした。

私たちは、自分が好きな仕事や、やりたい仕事は分かっているつもりです。
しかし、
「好きな仕事」と「最も能力を発揮できる仕事」は、必ずしも一致しません。
むしろ一致しないことの方が多いのではないか、と私は思っています。
だからこそ、人事異動という制度には大きな意味があります。
本人が望んでいない異動でも、上司や周囲から見ると、
「今ある強みにこの経験が加われば、さらに大きく成長できる」
ということが見えている場合がよくあります。
本人には見えなくても、他人には見えている才能や能力があるのです。

実は、私自身もその経験をしました。
富士銀行時代、私は市場部門で自己勘定(銀行本体の資金)のトレーダーをしていました。
毎日マーケットと向き合い、自分たちで決めたルールに基づいて運用する仕事です。
ようやく自分なりのトレーディング手法が確立し始め、安定して利益を上げられる手応えも感じていました。
「これからだ」
そう思っていた矢先、突然、部内異動の辞令が出ました。
異動先は、業績不振だった先物セールスチーム。
正直に言えば、全く行きたくありませんでした。

銀行には有名な言葉があります。
「銀行の辞令を拒否することは、退職を意味する。」
小説『半沢直樹』シリーズでもたびたび登場する言葉ですが、当時はまさにその通りでした。
どれほど理不尽に思えても、家庭の事情があっても、辞令は絶対です。

私は、自分の意思とは関係なく営業の世界へ飛び込むことになりました。
ところが、この異動が人生を大きく変えることになります。
営業は、当時の私にとってそれほど魅力のある仕事ではありませんでした。
しかし、実際に本気で取り組んでみると、営業とは、単に商品を売る仕事ではなく、お客様との信頼関係を築き、対等なお付き合いを続けていく仕事だったのです。

ちょうどその頃、父から一冊の洋書を譲り受けました。
『Customers for Life』
副題: How to Turn That One-Time Buyer into a Lifetime Customer
著者はカール・シーウェル。

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自動車ディーラーとして全米トップクラスの実績を築いた人物です。
父はマツダに勤務していましたので、自動車販売の勉強として購入していたのでしょう。
本書は自動車販売を題材にしていますが、そこに書かれていることは業界を超えて通用する普遍的な内容でした。
「一度売ることではなく、一生のお客様になっていただくこと。」
その考え方に強く共感しました。
私は、本に書かれていることを一つひとつ応用し、実践していきました。
結果4年かかりましたが、低迷していた先物セールスチームの業績は2年目あたりから、劇的に躍進し、シェアは業界ナンバーワンとなり、私自身も営業という仕事に面白さと自信を感じるようになりました。
そして何より、この時に身につけた営業力は、その後の起業や経営者としての人生でも大きな武器になっています。
もし当時、自分の希望通りトレーダーを続けていたら、今の私はなかったと思います。

人は、自分自身の可能性に気付けないことがあります。
だからこそ、時には自分の意思では選ばなかった環境に身を置くことにも意味があります。
異動、転勤、新しい仕事。
その瞬間は不本意に思えても、それが人生を大きく変える転機になることは少なくありません。
企業の役割の一つは、社員の可能性を探り、見抜くことです。
本人が気付いていない才能を見つけ、その才能が花開く環境を用意する。
それこそが、企業の人材育成であり、人事の本質なのではないでしょうか。

そして、社会人の皆さんにも伝えたいことがあります。
もし、自分が望まない仕事を任されたとしても、最初から「自分には向いていない」と決めつけないでください。
その経験が、10年後、20年後の自分にとって、かけがえのない財産になっているかもしれません。
私は今でも、あの時の人事異動に心から感謝しています。
望まなかった異動が、私に一生使える営業力を授けてくれたのですから。

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