――「ありがとう」に教えられたこと
クラウドファンディングというものに、私はこれまでそれほど積極的に関わってきたわけではありません。けれど先日、あるプロジェクトの支援をさせていただきました。
それは、「18歳で旅立った少年の笑顔を絵本に。闘病中も絶やさぬ『ありがとう』を届けたい」という趣旨のもので、18歳で亡くなった少年の生き方を絵本として残そうという取り組みです。プロジェクトページには、過酷な闘病のなかでも笑顔を失わず、周囲に「ありがとう」と微笑み続けた少年の姿が紹介されていました。
18歳で旅立った少年の笑顔を絵本に。闘病中も絶やさぬ「ありがとう」を届けた クラウドファンディング
支援後に届いたお礼のメールも、とてもまっすぐで、温かいものでした。
「たくさんの方の想いに支えられ、絵本作りへの大きな原動力をいただいています」
そんな趣旨の言葉が綴られていて、こちらが何かを与えたというより、むしろ自分のほうが大切なものを受け取った気がしました。
私は日々、経営という仕事に向き合っています。
会社を預かる立場にいれば、当然ながら、楽しいことばかりではありません。業績のこと、人間関係のこと、組織のこと、思い通りに進まないことはいくらでもあります。時には、知らず知らずのうちに表情が曇り、笑顔を失っている自分に気づくこともあります。
けれど、今回このプロジェクトに触れて、あらためて考えさせられました。
私は、五体満足に働ける身体がある。自分の足で歩ける。自分の意思で人に会い、仕事をし、食事をし、好きな本を読み、好きな音楽を聴くことができる。これは、本当は決して当たり前のことではないはずです。
にもかかわらず、私たちは日常の中で、つい不機嫌になる。
忙しいから。
思うようにいかないから。
誰かが自分の期待通りに動いてくれないから。
もちろん、それぞれに事情はあるし、現実はきれいごとでは済みません。厳しい判断をしなければならない場面もあります。私自身、経営者として、そうした現実から逃げるつもりはありません。
それでもなお、です。
深刻な病と向き合いながら、周囲に「ありがとう」と伝え続けた18歳の少年のことを思うと、自分の不機嫌や焦りの多くが、いかに自分の器の小ささから来るものかを思い知らされ、情けなくなります。
苦しみの中でなお感謝を忘れず、笑顔を絶やさなかった人がいる。
私は、強さというのは、声を荒らげることでも、弱音を見せないことでもないと思っています。
本当の強さとは、苦しいときに人への感謝を失わないこと。
つらい状況でも、周囲に安心を与える表情でいられることではないでしょうか?
仕事の現場でも同じです。
組織は、正論だけでは動きません。能力だけでも続きません。最後に人を支えるのは、やはり人への敬意や感謝だと思います。
どれだけ忙しくても、「ありがとう」をきちんと言える人。
どれだけ苦しい局面でも、周囲の人から希望を奪わない人。
そういう人が、結局は一番強い。私はそう思います。
今回の支援は、単なる寄付や応援ではありませんでした。むしろ、自分自身の姿勢を問い直す機会だったように思います。
果たして自分は、与えられているものに十分感謝できているだろうか。
不平や不満に心を奪われて、笑顔を失っていないだろうか。
周囲の人に、少しでも勇気や安心を与えられる存在でいられているだろうか。
絵本が完成したら、きっと多くの人の心に届くでしょう。
けれど、その絵本が届く前に、私はすでに大切なことを教わりました。
私もまだまだ未熟です。
仕事や人間関係の中で、表情が曇る日もあります。
しかし、だからこそ見習いたい。
今日を生きられることに感謝し、目の前の人にきちんと「ありがとう」を伝え、できるだけ笑顔を忘れずにいたい。
そんな当たり前のようでいて、実は一番難しいことを、18歳の少年が静かに教えてくれた気がしています。

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