金融機関の好決算の裏で、置き去りにされる人たち(読了目安時間:5分)

今期もメガバンクや大手証券の「好決算」が続いています。金利環境や市場要因に加え、「コスト削減の成果」が語られる場面も増えました。けれど私は、その削減が誰にとっての成果なのかを、もう一度問い直したいと思います。なぜなら、現場では“効率化”の名のもとに、負担と不安が顧客側へ静かに移されているように見えるからです。

金融機関が進めるコスト削減の中心は、店舗網や有人対応の縮小と、ネット取引への移行です。通帳や郵送物、窓口での手続きは「時代遅れ」とされ、オンライン化は合理的だ——それ自体は否定しにくい流れです。しかし、合理性が成立するための“移行コスト”は、誰が払っているのでしょうか。

私の84歳の母は、長年、某証券会社・広島支店で対面の取引をしてきた、ごく普通の顧客です。ある頃から「インターネット取引へ移行すると手数料が安い」「手続きが簡単」といった案内が届くようになりました。ところが、80歳を超える人にとって「ネットに移行」は抽象的で、何をどうすればよいかが見えにくい。母は支店へ電話をしましたが、何時間かけてもつながらない。結局、支店に足を運び、ようやく説明を受けることになりました。それでも理解できない点が多かったので、一度私が同行、同席して説明を受けました。

説明の要点は、「スマホかPCにアプリを入れ、ID・パスワードを設定し、2段階認証を使えば売買できます」というものです。現役世代には当たり前でも、高齢者には別世界です。アプリを探す、正しいものを入れる、IDとパスワードを管理する、SMSやメールで届くコードを時間内に入力する——どれも小さな段差が積み重なります。失敗すればロックがかかり、解除のためにまた連絡が必要になる。でも、その連絡がつながりにくい。これが「便利で安全なデジタル化」の現実です。

企業側は、店舗・人員・紙のコストを減らし、取引がオンラインで続けば収益は維持できます。一方で顧客側は、手続きの主体が「自分」になり、操作ミスやセキュリティの不安も抱えます。コスト削減の果実は企業に、移行の負担とリスクは顧客に——特にデジタルに不慣れな層に——という構図になっていないか。ここを曖昧なまま「DXだから」で正当化してよいのか、私は疑問です。

さらに分断を感じるのは、富裕層と通常顧客の扱いです。一定以上の資産があれば担当者がつき、対面で相談できる。一方、多くの通常顧客は「ネットならお得」「紙は有料」といった形で、有人サービスから遠ざけられていく。これは単なるサービスの差ではなく、金融インフラへのアクセス格差に近い。決算資料の“成功物語”に、その声はほとんど登場しません。

私は好決算そのものを否定したいわけではありません。ただ、数字の裏で誰がどんな負担を背負っているのかを見ないままでは、社会的インフラとしての金融の役割が痩せていく気がします。

母が、電話の不通に不安を覚えながらも、何度も支店へ足を運び、自分の資産を守ろうとする姿を見ていると、私は今の「高収益」を手放しで祝福できません。効率化が誰かの諦めの上に成り立つのなら、その決算は本当に健全なのか。金融が“人の暮らしを支える仕組み”であるために、現場の声を丁寧に拾い直す時期に来ているのではないでしょうか?

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