リスキリングと基礎学力

昨日のフジテレビの日曜報道 THE PRIME(7:30-8:55放送)で、就職氷河期世代の賃金停滞やキャリアの停滞が特集されていました。その中で、解決策の一つとして取り上げられていたのがリスキリング(※)です。政府や企業が推進するリスキリングは、新たなスキルを身につけ、労働市場での価値を高めるための重要な施策とされています。
※Reskilling=労働者が新しいスキルを学び直し、キャリアを変えたり、職場で新たなポジションや職種で働くためのスキルを習得すること。
しかしながら、私は長年ビジネスの現場で経営や人材登用に携わる中で、リスキリングの成功には前提条件があると強く感じています。それは、国語力、数学力、英語力といった「基礎学力」の差が、スキル習得の成否を大きく左右するということです。

<基礎学力の重要性>
リスキリングの本質は、新たなスキルを学び、実務に活かすことにあります。しかし、そもそも学ぶ力が不足していると、どんなに優れた研修や教育プログラムが用意されても、スキルの定着は難しくなります。
例えば、ITスキルの習得を考えてみましょう。プログラミングやデータ分析を習得するためには、基本的な論理的思考力や数的処理能力が求められます。数学の基礎がしっかりしている人は、アルゴリズムの理解や統計的分析もスムーズに進めることができます。しかし、数学の基礎が弱い人は、途中でつまずきやすく、結果的に「学び直しがうまくいく人」と「途中で挫折する人」に分かれてしまうのです。
また、国語力(読解力・文章力)が低い場合、教材の理解が難しくなり、学習効率が下がります。さらに、英語力が不足していると、グローバルな視点での情報収集や最新の技術トレンドをキャッチアップすることができません。

<現場で見られる基礎学力の壁>
企業経営の視点から見ても、基礎学力の有無は業務の遂行に直結します。

  • 国語力が低いと
    ▶ 上司:部下に対して適切に指示を伝えられず、業務が円滑に進まない。
    ▶ 部下:指示の理解が不十分で、誤解やミスが増え、非効率な作業が発生する。
  • 数学力が低いと
    ▶ 幹部社員:データ分析を活用した意思決定ができず、戦略的な経営判断が難しくなる。
    ▶ 一般社員:営業や業務で数値を扱う際に誤りが生じ、取引やプロジェクトに悪影響を与える。
  • 英語力が低いと
    ▶ 経営層:海外の技術情報や市場動向を適切に把握できず、国際競争力のある戦略を立てられない。
    ▶ 一般社員:外国語での資料を読解できず、最新技術やトレンドの習得が遅れる。

こうした課題は、個々の従業員の問題にとどまらず、企業全体の生産性にも大きく関わります。企業が社員にリスキリングを求めるのであれば、その前提として、基礎学力の向上にも目を向ける必要があります。

<ソムリエのケース>
私は日本ソムリエ協会のワインエキスパート資格を持っていますが、近年では有名飲食店や飲食店を運営する企業において、ソムリエ資格が採用に有利とされることが増えています。飲食店の店員とソムリエ試験について会話をする機会もあります。
一見、ソムリエ資格と基礎学力は無関係のように思えますが、実際には密接に関係しています。
例えば、ワインのブドウ品種は栽培地域や気候によって特徴が異なります。そのため、地理の知識がある人は試験で有利になります。フランスやイタリアの位置が分からなければ、試験合格には膨大な時間がかかるでしょう。
また、ワインはフランスを中心とするヨーロッパ文化に根付いたものです。外国語が得意な人は、圧倒的に有利です。例えば、ドイツ語では「Einzellage(アインツラーゲ)」という単語があり、特定の単一畑で収穫されたブドウのみを使用したワインを指します。ドイツ語を理解する人なら、「Ein(アイン)」=「一つ」、「Lage(ラーゲ)」=「土地」と直感的に理解できるため、余分な暗記の必要がありません。
この例からも分かるように、どの職種においても基礎学力は重要であり、日常業務やスキル習得に直結するのです。

<企業と社会が取り組むべきこと>
リスキリングが効果的に機能するためには、基礎学力を底上げする施策が不可欠です。具体的には、以下のような対策が考えられます。

  1. 企業の研修制度に「基礎スキル強化」を組み込む
    o 読解力・論理的思考・数的処理能力を鍛えるトレーニングを追加する。
    o スキル研修の前に、基礎学力診断を行い、必要に応じた補習プログラムを設ける。
  2. 社会人向けの「学び直し」支援を強化する
    o 行政のリスキリング支援に、英語・数学・読解力向上のカリキュラムを加える。
    o 大学や専門機関が、社会人向けの基礎学力講座を充実させる。
  3. 採用・評価の基準を見直す
    o 「論理的思考力」「読解力」「数的処理能力」を重視する。
    o 既存社員に対しても、基礎学力の向上を奨励し、長期的な成長を支援する。

結論
「急がば回れ」という格言ほど、学習やスキルアップに適している言葉はないでしょう。リスキリングを成功させるためには、その前提となる基礎学力の向上が不可欠です。企業や社会が長期的な視点で人材育成に取り組むことが、持続的な成長につながると信じています。

過去参考コラム:リスキリングはスペシャリストになるチャンス – kozuka.blog

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