その石ころは、ダイヤモンドかもしれない(読了目安時間:5分)

先週、大阪で営業案件の会議をしていた時のことです。
いくつかの案件報告を聞いている中で、私は少し気になることがありました。時期をほぼ同じくして、複数の船舶関連企業から試験機に関する問い合わせが入っていたのです。
一件一件を見れば、それほど特別なことではありません。
営業の現場では、毎日のように問い合わせや見積依頼があります。「お客様から問い合わせがあったので対応する」。それ自体は、ごく普通の日常業務です。

しかし私は、その話を聞きながら、「これは偶然なのだろうか」と考えました。
共通していたキーワードが、「造船・船舶」だったからです。
少し視野を広げてみると、日本政府は現在、造船を成長戦略の重点17分野の一つに位置づけています。2035年の建造量倍増を目標に、今後10年間で官民合わせて1兆円規模の投資を目指しており、省力化・自動化設備、ドックやクレーンなどへの大規模投資も具体的に動き始めています。
そう考えると、営業会議で耳にした複数の問い合わせも、こうした大きな流れと無関係ではないのではないか。
もちろん、現時点ではあくまで仮説です。
しかし私は、営業において、この「仮説を立てる」ということが非常に大切だと思っています。

この時、ふと思い出した言葉があります。
私は銀行員時代、市場部門でトレーダーをしていました。その頃の部長が、こんなことを言っていました。
「その辺に落ちている石(情報)を、ただの石ころだと思うか。もしかするとダイヤモンドかもしれないぞ、と考えることが重要だ」
もう30年以上前の話ですが、この言葉だけは今でも忘れません。
市場では、世界中から膨大な情報が入ってきます。経済指標、金利、為替、企業のニュース、政治家の発言。ほとんどは、その日のうちに忘れられていく情報です。
しかし、その中の何気ない情報の一つが、実は大きな相場変動の前触れかもしれない。
だからこそ、「これは何を意味しているのだろう」と考える習慣が重要だったのだと思います。

考えてみれば、これは営業の世界も全く同じです。
営業マンも毎日、実に多くの情報に接しています。
お客様からの問い合わせ、見積依頼、何気ない会話、展示会で聞いた話、業界ニュース、競合企業の動き、政府の政策。
一つひとつは小さな「点」です。
残念ながら、その点を単なる日常業務として処理してしまうことは少なくありません。
問い合わせが来たから回答する。
見積依頼が来たから見積書を作る。
注文をいただいたから製品を納める。
もちろん、どれも営業として必要な仕事です。

しかし、それだけでは、目の前に落ちている「石ころ」を拾って終わってしまいます。
大切なのは、
「なぜ今、この問い合わせが来たのだろう」
と一度考えてみることです。
同じ業界から似た問い合わせが続いた。新聞を見ると、その業界への設備投資の記事が増えている。政府がその産業を成長分野に指定した。お客様との会話でも、自動化や研究開発という言葉が増えてきた。
一つひとつは無関係な点に見えます。
しかし、点と点をつないでみると、そこに一本の線が見えてくることがあります。

今回であれば、
「複数の船舶関連企業から問い合わせがあった」
という小さな点と、
「国として造船産業への大規模投資が始まった」
という大きな点をつないでみる。
すると、
「これから、この分野で何かが起きるのではないか」
という仮説が生まれます。

そして、仮説が生まれれば行動が変わります。
業界について調べてみる。ほかのお客様にも同じような動きがないか聞いてみる。これまで接点のなかった企業にも足を運んでみる。
そうすると新しい情報が入ってきます。その情報によって仮説を修正し、また動く。
もちろん、仮説が外れることもあります。
むしろ、最初から正解が分かっていることの方が少ないでしょう。
しかし、何の仮説も持たず、目の前に来た仕事だけを処理していたのでは、新しい市場を見つけることはなかなかできません。

良い営業マンとそうでない営業マンの差は、単純な情報量ではないと私は思っています。
同じ情報を見ても、
「ただの石ころだ」
と思う人と、
「もしかしたらダイヤモンドかもしれない」
と思って拾い上げ、少し調べてみる人がいる。
その違いは、その瞬間にはわずかなものです。
しかし、それを半年、一年、十年と続ければ、大きな差になります。
大きなビジネスの種が、最初から「大きなチャンスです」という看板を掲げて現れることはありません。
点と点をつなぎ、仮説を立て、行動する。
そうしているうちに、最初は石ころにしか見えなかったものの中から、本当のダイヤモンドが見つかることがある。
私は、それこそが営業という仕事の面白さの一つだと思っています。

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