小国の底力から学ぶ、日本の未来(読了目安時間:5分)

― スイスで考えた「豊かさ」の本質 ―

先週、一週間ほどスイスへ出張する機会がありました。私は1990年代後半にスイス富士銀行(会社名は銀行ですが、証券現地法人)へ駐在し、その後もここ3年間は毎年この時期にスイスを訪れています。だからこそ、この30年近くのスイスの変化だけでなく、日本との違いも肌で感じることができます。

今回、改めて驚いたのは、スイスフランの強さです。
私が駐在していた頃、1スイスフランは70〜80円程度でした。それが今では200円を超える水準です。30年近くの間に、日本円のスイスフランでの購買力は3分の1近くまで低下したことになります。もちろん、これは単純に「日本の国力が3分の1になった」という話ではありません。為替は金融政策、金利、物価、国際社会における通貨への信認など、様々な要因によって決まります。
しかし、この30年近くで日本とスイスが歩んできた道には、大きな違いがあったことも事実だと思います。
その違いは、所得水準にも表れています。チューリッヒやジュネーブといった主要都市では、平均年収が日本円で1,000万円を超え、日本の平均給与のおよそ3倍という世界最高水準にあります。もちろん、物価や住宅費も非常に高いため単純比較はできません。それでも、世界市場で高い付加価値を生み出し、その利益を賃金へ還元していることは間違いありません。

今回の出張では、スイス富士銀行時代の同僚であり、現在は投資会社のCEOとして活躍するIvo Winistoerfer氏(https://alprimecapital.com/team/)の自宅にも招待していただきました。チューリッヒ湖を望む丘の上の住まいは、自然を愛し、スポーツを愛する彼らしい素晴らしい環境でした。夕食では一緒に料理を作り、ワインを飲みながら昔話や現在の株式市場の話題に花を咲かせました。年月を感じさせない友情に触れ、人とのつながりの大切さも改めて実感しました。

一方、経営者という立場でスイスを見ると、別の景色も見えてきます。
人口約900万人という小国であるスイスは、国内市場だけでは成長できません。そのため企業は創業時から世界市場を見据え、時計、精密機械、医薬品、金融など、高い技術力と付加価値を武器に世界で競争しています。(製薬のロシュ、ノバルティスファーマ、食品のネスレは代表格)
「世界で勝てなければ生き残れない」という緊張感が、産業全体の競争力を支えているように感じました。
さらに印象的だったのは、企業の変化への対応力です。市場環境が変われば組織を見直し、人材を成長分野へ配置し直し、新たな事業へ投資する。その意思決定のスピードは、日本よりも速いように感じます。
もちろん、日本の制度が劣っていると言いたいわけではありません。日本は働く人を守る制度を長い時間をかけて築いてきました。それは安心して働ける社会を支える大切な仕組みです。
しかし、世界の変化はこれまでになく速くなっています。AIの進化、地政学リスクの高まり、サプライチェーンの再編、脱炭素への対応など、企業を取り巻く環境は大きく変わりました。その変化に企業が迅速に対応できる制度や社会の仕組みも、これまで以上に重要になっています。

私は製造業の経営に携わるようになって、日本のものづくりの底力を日々実感しています。現場力、品質へのこだわり、誠実に仕事へ向き合う姿勢は、今なお世界トップレベルです。だからこそ、日本に足りないのは技術でも人材でもなく、その力を最大限に発揮できる環境ではないかと思うのです。
高い賃金は、賃金だけを引き上げれば実現するものではありません。企業が世界で競争し、高い付加価値を生み、その利益を社員へ還元する。その好循環があって初めて、持続的な賃金上昇が実現します。
日本が目指すべきなのも、企業か労働者かという二者択一ではなく、企業が成長し、その成果が働く人へ還元され、さらに新たな成長につながる循環をつくることではないでしょうか。そのためには、企業も変わらなければなりませんし、制度も時代に合わせて不断に見直していく必要があります。
スイスの豊かさは、人口の多さでも資源の豊富さでもありません。世界で勝てる産業を育て、それを支える制度を磨き続けてきた結果です。

日本にも、世界に誇る技術があります。勤勉で誠実な人材もいます。私たちに足りないのは能力ではなく、その力を最大限に発揮できる法制度や税制を含む社会の仕組みを、変化を恐れず進化させていく覚悟なのかもしれません。
海外へ出るたびに、日本の素晴らしさを再認識すると同時に、「日本はもっと良くなれる」。そんな確信を持って帰国する自分がいます。今回のスイス出張も、改めてそのことを教えてくれた、大変実り多い一週間となりました。

参考ブログ:30年経っても変わらないもの – kozuka.blog

archives

  • ▼2026 (44)
  • ►2025 (52)
  • ►2024 (51)
  • ►2023 (47)
  • ►2022 (52)
  • ►2021 (60)

Latest Posts


投稿日

カテゴリー:

投稿者:

タグ:

コメント

コメントを残す