テクノロジーは既得権益を排除する②

7月13日、“グーグルがスマートフォン決済サービスを提供するpring(プリン)の買収に合意し、送金、決済サービスに参入する”というニュースが飛び込んできました。
プリンは親会社のメタップスをはじめ、ミロク情報サービス、日本瓦斯(ニチガス)、伊藤忠商事、ファミマデジタルワン、SBIインベストメント、みずほ銀行、SMBCベンチャーキャピタルなど複数企業の資本が入っていましたが、グーグルが全株式を取得し、8月中には実質的にグーグル傘下の企業となる模様です。
海外、特にアジアでもテクノロジーカンパニーや新興企業の銀行業への参入が活発です。
昨年12月、シンガポールの中央銀行に相当する通貨金融庁(MAS)は、Sea Limited/シー(ゲームプラットフォーム、Eコマース事業) と Grab-Singtel/グラブ-シングテル(配車サービス、グラブとシンガポールテレコム合弁会社) 陣営2社に対し、新たなデジタルフルバンクライセンスを付与しました。

今回は、銀行にはどのような事業領域があり、上記のような異業種がどのようなアプローチで銀行業に参入しようとしているか、ざっくり見てみます。

Lending 融資

日本でもソーシャルレンディング企業が既にサービスを開始しています。この業界のフィンテック企業は、人々がお金を借りる方法を簡素化しました。かつて、人々は銀行や信用金庫、信用組合等を利用して融資を受けていました。現在では、世界中のフィンテック企業が、オンラインで、お金を投資したい人からお金を借りたい人・会社へお金を融通するサービスを提供しています。また、これらの企業のプロセスやシステムは自動化されているため、審査は迅速に行われます。
フィンテック企業が提供するローン・融資は、高度なソフトウェアを使って借り手の信用力を評価します。また、引受プロセスも自動化されているため、従来の銀行や貸金業者よりも多くの借り手にサービスを提供することができます。この分野のフィンテック企業の例としては、Kabbage(https://www.kabbage.com/)やBorrowell(https://borrowell.com/)などがあります。
日本では、ソーシャルレンディングでは最大手だったマネオ、SBIソーシャルレンディングが不適切な融資によって、投資先から資金を回収できず、投資家へ返還すべき元本を失うという問題が起こったため、ネガティブな印象があるかもしれません。しかしながら、仲介者としてのコストを格段に下げ、貸し手と借り手の金利差を縮めることは、双方にメリットがある事業なので、ソフトウェアの高度化、審査自動化を実現できる会社が出てくれば、低金利で不満のある消費者、預金者にはうってつけのサービスになるでしょう。

Payment 決済

決済に特化したフィンテック企業は、銀行を介さずに人にお金を送ることができます。そのため、ピアツーピア(※)をベースにした送金であれば、銀行のサーバーを介することがないので、銀行に送金手数料を支払う必要はありません。ブロックチェーン技術を利用することが多く、この分野のフィンテック企業の例としては、Circle(https://www.circle.com/en/)やVenmo(https://venmo.com/)があります。
グーグルが買収したプリンは銀行口座と連携しながら、送金、受取り、支払いを無料化しましたので、銀行という既存のプラットフォームと新しい発想を融合した会社と言えるでしょう。これからグーグルがどのように自社サービスに活用するか、注目していきたいと思います。

Transfer 国際送金

かつて人々は、国際送金に多額の(8%もの)手数料を支払っていました。さらに、従来の送金は時間がかかります。
しかし、先週コラムで紹介したワイズをはじめ、この分野のフィンテック企業は、より速く、より安価な国際送金を提供しています。例えば、速さという点では、リップル社は数秒で国際送金を行うサービスを提供しています。

ワイズのように創業から国際送金事業に特化している会社がある一方、グーグル、シー、グラブは自社の既存事業で、消費者の行動履歴、購買履歴、飲食店の売上、デリバリーサービスの動線、配車サービスによる売上等を全てデータで管理しています。これらのデータを組み合わせ、解析することにより、いつ、いくらの資金が必要で、いつ返済できるかを把握することができるようになります。また、FacebookやLinkedinに至っては、どういう人脈と付き合っているかまで把握できるので、凡その年収を予測することができるかもしれません。
これまで、何十年もの間、銀行は企業に融資する際、年1回の決算書を重視してきました。もちろん、この膨大な過去データは既存の銀行にとっては大きな資産です。一方、決算書は1年に1日のデータに過ぎないので、日々の行動や決済履歴、数字には表れない会社・人の価値(※)の方がより重要だという考えもあるでしょう。
融資申し込みには絶対必要だった決算書を提出する必要なく、様々なデータ分析を行うAIが融資審査をする日もそう遠くはないかもしれません。

”もし銀行があなたへの融資を断り、「なぜですか?」というあなたの問いに、「アルゴリズムがそう申しておりますので」と返答したとしよう。「なぜ、アルゴリズムはノーと言ったのですか?私のどこが悪いのですか?」と訊くと、「申し訳ありませんが、わかりかねます。このアルゴリズムを理解している人間は一人もおりませんので。なぜなら、それは高度な機械学習に基づいておりますものですから。しかしながら、私どもは弊社のアルゴリズムを信頼しておりますから、お客様への融資はいたしかねます」” 

(ユヴァル・ノア・ハラリ著「21 Lessons」より抜粋)

※日本では帝国データバンクが知的資産経営の支援に乗り出しており、興味深い動きだと思います。同社は知的資産とは、決算書に表れない「会社の強み」と定義しています。
①社長のリーダーシップ
②顧客からの信頼
③クレーム対応のノウハウ
④人脈
⑤従業員の忠誠心
https://www.tohoku.meti.go.jp/s_intellectual_assets/index_intellectual_assets.html

(※)注釈
P2Pピアツーピア:Peer to Peer (対等な立場で通信するという意味)の略称で、データを送る人と受ける人が直接通信をしてデータを共有できる通信技術の略称です。最も身近なアプリ(ソフトウェア)はLINEです。
一方、P2Pアプリでは直接通信する相手の安全性の確認が困難なため、厳密に言うと、機密性やセキュリティを重視するビジネスには不向きなので、ビジネス利用する場合は、クライアント・サーバー方式(現在ではセキュアなクラウド)を使用する方式を用います。
クライアント・サーバー方式の特徴を「一極集中による確実性」とするなら、P2P方式の特徴は「分散処理によるスピード」です。

当然、両者とも得意なことと苦手なことが存在します。

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